【悲報】自作の3キロ痛バッグ、ライブ開場直前に大破してオワタと思ったら奇跡起きた
聞いてくれ。先週末、俺の人生のすべてと言っても過言ではない架空の3ピースバンド「オルタナティブ・ダイブ(通称オルダイ)」のツアーファイナルに行ってきたんだが、そこで文字通り「一生忘れられない体験」をしてきた。
俺は26歳の男。普段は地味な事務職なんだけど、推し活の時だけは人格が変わる。今回のライブのために、数ヶ月かけて集めた限定缶バッジ80個を敷き詰めた、推定重量3.5キロの「重装甲痛バッグ」を錬成して参戦したんだ。自立するレベルで重い。
いざ会場の物販列に並び、テンションMAXで「今日で俺の夏が終わるぜ…」とか悦に浸っていたその時。
「ブツッ」
鈍い音と共に、肩に掛けていた痛バッグのストラップが千切れた。重力に従ってアスファルトに叩きつけられる俺の魂(バッグ)。その衝撃で、なんと缶バッジを保護していたビニールシートが破れ、数枚の激レアバッジがピンから外れてコロコロと四方に転がっていった。
「あっ、終わった」と思った。アラサー男が、一人で必死に地面を這いつくばって缶バッジを回収する姿。想像するだけで社会的死だし、何より開場まであと30分しかない。パニックで頭が真っ白になって固まっていたら、目の前にスッと手が伸びてきた。
「あ、これ初期のツアー限定のやつですよね! 懐かしい!」
隣に並んでいた見知らぬお姉さんが、笑顔でバッジを拾ってくれた。さらに、後ろにいた男子高校生グループも「うお、この缶バッジの配列すげえ!」「俺こっち探します!」と、一瞬で捜索隊が結成されたんだ。
ものの数分で、散らばったバッジはすべて回収された。誰も俺をオタクだと蔑むことなく、むしろ「愛が詰まってますね」「今日のセトリ楽しみですね!」と声をかけてくれた。ボロボロになったバッグを抱えながら、俺は涙目でお礼を言うのが精一杯だった。
結局、その人たちとは席も違ったし、連絡先も交換していない。だけど、ライブが始まって爆音が身体を揺らした瞬間、胸がいっぱいになった。
ステージの照明に照らされる数万人の観客。この中に、さっき俺を助けてくれた人たちがいる。名前も知らないけれど、同じ音楽を愛し、同じ空間を共有している。
いつも「どうせ俺なんて影の薄いぼっちオタクだし」と斜に構えて生きてきた。だけど、大好きなバンドの曲を聴きながら、ボロボロの痛バッグをぎゅっと抱きしめた時、確かに心が熱くなったんだ。俺は一人だけど、孤独じゃない。この温かい世界の一員になれているんだって、初めて自分を肯定できた気がした。
ライブが終わり、すっかり肩の軽くなった(リュックに移した)帰り道、夜風がめちゃくちゃ心地よかった。誰かと繋がることだけが出会いじゃない。あのライブを通じて、俺は前より少しだけ、自分のことが好きになれた気がする。やっぱり推し活は最高だ。次はバッグの紐、ワイヤーで補強していくわ。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。