鬼課長に推しのアクスタを没収された結果www
昨日、会社で一番恐れられている「鬼の課長(50代・超コワモテ)」のデスクに、俺の命より大事な「推しのアクスタ」を置き忘れた。
マジで人生終了したと思った。
スペックを軽く晒すと、俺は20代半ばのしがないサラリーマン。趣味は「アルカディア・ネオ(通称アルネオ)」っていう架空の近未来系5人組メンズアイドルの追っかけだ。
中でも青担当の「ハルト」を神と崇めていて、遠征用のリュックは缶バッジとラバストで武装した立派な痛バッグ。部屋はハルトのラミネートカードとアクスタで埋め尽くされている。
事件が起きたのは、3日間のドームツアー遠征から這うように出社した月曜日。
お土産の余韻に浸りたくて、こっそりハルトのアクスタ(高さ15cm、ファンサ仕様)をデスクのパーテーションの隙間に飾ってニヤニヤしていた。
だが、そんな時に限って急なトラブルが発生。
「おい、全員今すぐ会議室に集合だ!」
鬼課長の怒号にビビった俺は、大慌てでメモ帳だけを掴んで席を立った。そう、ハルトをデスクに残したままで……。
会議が終わり、1時間後に席に戻ると、ハルトの姿がない。
心臓が縮み上がった。まさか風で飛んだ? いや、パーテーションの向こうは、あの鬼課長のデスクだ。嫌な予感しかしない。
恐る恐る課長の方を見ると、すれ違いざまに「おい、お前。ちょっと会議室に来い」と、ドスの効いた声で呼び出された。死ぬ、マジで死ぬ。
会議室の重苦しい空気の中、課長は無言でポケットから俺のハルトを取り出し、机にコトッと置いた。
「これ、お前の私物だな?」
「すみません!業務中に私物をデスクに出すなんて、完全に私の不徳の致すところで……!」
俺は直立不動で平謝りした。だが、課長はなぜか渋い顔でハルトを見つめたまま、ぽつりと言った。
「……ハルト、これ『創世記ツアー』の限定アクスタだろ。お前、ハルト推しなのか?」
「えっ?」
顔を上げると、課長の目がガチの目だった。
なんと課長はスッと自分の内ポケットから、真っ赤なレザーポーチを取り出した。
ジッパーが開かれると、そこにはアルネオの赤担当「レン」の初期レア缶バッジが、寸分の狂いもなく綺麗に整列していた。痛ポーチだ……!
「実は、高校生の娘の付き添いでライブに行ってから、レンの圧倒的センター力に射抜かれてな……。でも職場じゃ言えなくて、孤独な戦いを続けていたんだ」
コワモテの鬼課長が、急にただの熱い限界オタク(赤担当)に変貌した瞬間だった。
それからというもの、鬼課長は俺に対してめちゃくちゃ優しくなった。
「おい、この企画書の構成、アルネオのフォーメーションばりに美しいな」とか謎の褒め方をされるし、残業しそうになると「おい、今日はハルトの生配信の日だろ。定時で上がれ」と促してくれる。
今では休憩時間に、給湯室で「今度の冬ツアーのセトリ予想」をひそひそ話すのが日課だ。
仕事はやりやすくなったし、まさかの同志が見つかるしで、オタク趣味は隠さない(ただし置き忘れには注意する)に限るなと思った。今度のドーム、課長と連番で行ってきます。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。