【全5話・第1話】痛バ崩壊から始まる運命の夜
【速報】ワイ、推しの周年ライブ当日に痛バの底が抜けて絶望。
まじで泣きそう。いや、ちょっと泣いた。アラサー男が駅のホームで缶バッジ約80個をぶちまける地獄絵図、想像できる?
俺の名前は「サトシ」。アラサーのしがない会社員なんだが、生き甲斐は4人組ロックバンド「ルナ・エッジ(LUNA EDGE)」の推し活だ。特にベースの「KAI」様を神と崇めている。今日のライブは結成10周年、しかもキャパ2000のプラチナチケットを奇跡的に当てた超大事な日なのだ。
気合いを入れすぎて、KAI様の限定缶バッジとラバーストラップをぎっしり詰めた特注の痛バッグ(総重量およそ3キロ)を抱えて参戦しようとしたのが間違いだった。電車のドアが開いた瞬間、見知らぬおっさんのリュックが引っかかり、バリッという不吉な音とともに痛バが爆発。
「うわあああ!KAI様がああ!」
ホームに散らばる、レア度SSRの限定ラミネートカードと大量の缶バッジ。周りからの冷ややかな視線。発車ベルの音。ワイ、膝から崩れ落ちてカオス状態。半泣きで拾い集めてたら、目の前にすっと黒い靴が差し出された。
「これ、限定の初期缶バッジじゃん。傷ついたらヤバいって」
見上げると、全身黒づくめでKAI様と同じブランドの参戦服を着た、背の高いシュッとしたお兄さんが、手際よく缶バッジを拾ってくれていた。
「あ、ありがとうございます…!」
「いいって。俺もルナエッジのライブ行く途中だから。てか、お兄さんKAI推し?センスいいわ」
そう言ってニヤッと笑った彼のカバンにも、なんと俺が喉から手が出るほど欲しかったKAI様の超超レアな初期アクキーが揺れていたのだ――!
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。