【全5話・第2話】運命の痛バ補修と謎の同担

【全5話・第2話】運命の痛バ補修と謎の同担 の挿絵

初対面でいきなり安全ピンを差し出してくるとか、どんな救世主だよ……!俺は目の前に現れた黒づくめの青年に、思わず後ずさりしかけた。

「あの、それ……使ってください。缶バッジ、落としたら絶対後悔しますよね」
彼の声は予想外に低く、そして優しかった。よく見ると、彼の背負っているリュックにも、ひっそりとLUNA EDGEの初期限定ラバーストラップが揺れている。マジか、マジで同担だ!しかもあのストラップ、5年前の100人限定ライブのやつじゃん……!古参だ、本物のガチ勢だコレ!

「あ、ありがとう……助かります!」
俺は礼を言い、借りた安全ピンで破損した痛バッグの内張りを取り急ぎ補修した。命拾いした……これで最悪の事態は免れた。ホッと胸を撫で下ろしていると、彼が俺のバッグをまじまじと見つめていることに気づいた。
「……それ、KAIさんの『漆黒の宴』ツアー限定ラミカですよね?しかもサイン入り」
「えっ、分かります!?そうなんです!これ当てるために当時CDを30枚買って――」
「30枚!?すごい……僕なんてあの時、金欠で3枚しか買えなくて指くわえて見てたんですよ」

気づけば俺たちは、開場前の混雑した会場前広場の隅っこで、熱狂的なKAIトークに花を咲かせていた。推しのどこが好きか、どのソロパートのギターリフが至高か、語れば語るほど「わかる!!」の嵐。今までネットでしか分かち合えなかった熱量が、目の前の男と完全にシンクロしている。
なんだこの感覚。男同士、しかも初対面なのに、長年の親友と話してるみたいだ。

「あ、僕、レンって言います。サトシさん、もし良かったら開演まで一緒にドリンクでも……」
レンがそう言いかけたその時、俺のスマホがけたたましく鳴り響いた。画面を見ると、一緒に参戦するはずだった連れの連番者からの着信。
画面をタップして耳に当てた瞬間、電話越しに悲鳴のような声が飛んできた。
『サトシ!?大変!チケット、家に忘れてきた!!!』

「……は!???」
開演まであと30分。俺たちの運命に、最大の絶望が襲いかかった――!

※この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。

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