【全5話・完結】推しの笑顔と最高の戦友たち
「KAI様ー!衣装、間に合ったぞー!!」
追加公演の開演15分前。楽屋裏の搬入口に、俺たちオタク集団の怒号にも似た叫びが響き渡った。
俺とタカシが呼びかけたSNSのSOSに反応してくれたのは、全国から駆けつけた総勢30人の「KAI様推し」たち。それぞれが持ち寄った自慢の痛バッグから、KAI様の初期缶バッジを慎重に外し、レンの手へ。レンは涙で目を真っ赤にしながら、針と糸を爆速で動かし、破損したKAI様のステージ衣装を補修しつつ、缶バッジを狂いなく装飾していった。まさに職人技。いや、推しへの愛が生んだ奇跡だ。
そして、本番のベルが鳴る。
客席の最前列付近、俺とタカシ、そして作業を終えて客席に滑り込んだレンの3人は肩を並べてステージを見上げた。ライトが点灯し、爆音とともに登場したKAI様。その胸元には、俺たち全員の愛と情熱が詰まった、世界に一つだけの「痛装飾衣装」が光り輝いていた。
「今日の衣装、急遽協力してくれた最高のファンと、新人スタッフに感謝を!」
MCでKAI様がそう叫び、俺たちのいる上手側を指さしてウインクを飛ばした瞬間、俺とタカシとレンは抱き合って号泣した。周りのオタクたちも「サトシさんたちマジでやったな!」と背中を叩いてくれる。
ライブ終了後、会場近くの居酒屋で大打ち上げ大会が開催された。集まったのは、今日一緒に戦った性別も年齢もバラバラな「KAI推し」の同志たち。
「サトシさん、あの時の缶バッジのパス、神がかってましたよ!」
「レンちゃんの縫製スピード、人間じゃなかったわw」
酒を酌み交わしながら、推しの尊さと今日の奇跡を語り合う。そこには恋愛感情なんて一ミリもない。あるのは、同じ男(推し)を限界まで愛し、共に修羅場をくぐり抜けた熱い「友情」だけだった。
「俺たち、最高のチームだな!」
タカシの乾杯の発声に、全員のジョッキがぶつかり合う。推し活ってのは、一人でも楽しい。でも、同じ熱量で笑い合える「戦友」が出来たなら、その楽しさは無限大だ。
さて、来月の地方ツアーの遠征、みんなで夜行バス取るとしますか!俺たちの推し活は、まだまだ終わらない!
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。