【全5話・第1話】推しへの愛を詰め込みすぎた男の末路
お前ら聞いてくれ。今日、俺の人生最大の晴れ舞台になるはずだったんだ。それが今、車内の冷たい視線に晒されながら、スマホを握りしめてこれを書き込んでいる。
俺の名前はタカシ。普段は冴えないシステム屋だが、週末は最強のロックバンド「メタギャラ(メタル・ギャラクシー・スターズ)」の限界オタクだ。今日はメタギャラ結成5周年ツアーの初日。俺はこの日のために、3か月分の給料を叩いて缶バッジを200個買い集め、総重量およそ5キロの「超重量級・全面鋼鉄痛バッグ」を作り上げた。さらに、背中に推しの顔をデカデカとアイロンプリントした特注の参戦服(自作特攻服風)を羽織り、両腕にはラバストを各10本装備。まさに歩く要塞。戦闘力は53万だ。
「今日こそ、俺の愛を推しのボーカル・神威(カムイ)に見せるんや!」
そう意気込んで、超満員の通勤快速に乗り込んだのが運の尽きだった。ぎゅうぎゅう詰めの車内、四方八方から押し寄せる圧力。俺は必死に5キロの痛バを抱え、缶バッジが周囲の人に当たらないようガードしていた。しかし、急ブレーキがかかったその瞬間、ドォンと大きな衝撃が走る。あろうことか、俺の痛バのデコレーション用安全ピン(強度の高い極太仕様)が、隣に立つ強面サラリーマンの高級そうなトレンチコートの繊維に、ガッチリと、深く、そして複雑に絡みついてしまったのだ。
相手は身長180センチ超、ピシッとした七三分けの見るからにエリート風のヤクザ(風のビジネスマン)。彼が「うおっ」と声を漏らし、コートを引っ張る。しかし、俺の愛の結晶(缶バッジ200個)は、まるで知恵の輪のように彼のコートと完全に一体化してしまっていた。動けば動くほど、彼のコートの糸が「ピピピッ」と引き裂かれる不穏な音が響く。サラリーマンの額に青筋が浮かぶのが見えた。
「おい、君。これ、どういう状況だ?」
低く響く声。車内の乗客全員の視線が、俺と、俺の痛バの神威の顔に集中する。最寄り駅のチャイムが鳴り響き、ドアが開く。どうする俺!?
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。