【全5話・第3話】強面オジサンと物販列の奇跡
「お前、コレどう落とし前つける気だ?」駅のホームに、重低音の怒号が響き渡った。
俺、タカシ。開演まであと20分。目の前には破れた高級バーバリーのコートと、般若の如き相貌のスーツ男。そして俺の肩には、推しの缶バッジが80個敷き詰められた重量5キロの痛バッグ。完全に詰んだ。詰みすぎて逆に脳内でメタギャラの「絶望デスロード」が再生され始めるレベル。
「あの、本当にすみません!弁償します!名刺でも連絡先でも何でも渡すんで、とりあえず中のホールに行かせてください!今日逃したら俺、死ぬんです!」
必死の土下座スタイルで懇願する俺。すると男は、俺の痛バを凝視したまま、ふっと眉間をひそめた。
「……お前、それ……ギターのKATSUの限定缶バッジか?」
「え?」
男の視線の先には、昨年のツアーで限定100個しか出なかった超激レアのKATSU缶バッジ。
「お前……メタギャラ好きなのか?」
「えっ、あ、はい!結成当時からの古参です!」
「……チッ、ついてこい」
男に襟首を掴まれたまま引きずられたのは、会場の裏手にあるスタッフ通用口だった。え、何?警察?それとも消されるの?俺、ライブ前に東京湾に沈むの?
恐怖でガクガク震える俺の前で、男はポケットから「VIP関係者パス」を取り出し、警備員に見せた。
「おい、こいつ俺の連れだ。通せ」
「は?????」
呆然とする俺に、男はコートの破れ目を指差しながらニヤリと笑った。
「俺はメタギャラの初期からのスポンサー企業の社員だ。コートの件は後でゆっくり話を聞く。だが……その前に」
男は自分の胸元をバッと開いた。スーツの下に着込まれていたのは、激レアな初期限定ライブTシャツだった。
「俺もKATSU推しだ。開演まであと10分。オタクなら、まずライブで暴れてから責任取れ」
神……!この強面オジサン、まさかの同担(同じ推し)のネ申だった!!
VIPルートで爆速入場を果たした俺たちは、開演ギリギリでアリーナ最前列付近に滑り込んだ。暗転する会場。爆音で流れるSE。俺とオジサンは言葉を超えた固い握手を交わし、ライブは最高潮の盛り上がりを見せた。
――そして終演後。
汗だくで最高の余韻に浸る俺の隣で、オジサンがスマホ画面を見せながら言った。
「最高のライブだったな。さて……タカシ君。ここからが本番だ」
スマホに表示されていたのは、破れたコートの修理見積もり概算額。その数字を見た瞬間、俺の血の気が引いた。
「……えっ、桁、間違ってませんかね?」
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。