【全5話・完結】伝説の痛バ職人とズボンの奇跡

【全5話・完結】伝説の痛バ職人とズボンの奇跡 の挿絵

大河内さんの十数万円はするであろう高級スーツのズボンが、膝から股下にかけて豪快に破けた。終わった。俺の人生、ここで完全終了だ。
絶望で白目をむく俺の横で、爆音で鳴り響くメタギャラの重低音。会場のセレブたちは何事かと騒然としている。しかし、ここで俺の「推し活で鍛え上げられた危機管理能力」が奇跡の覚醒を果たした。
「落ち着けタカシ、現場で痛バが壊れた時の応急処置を思い出せ!」
俺はポケットから、遠征時の必需品である超強力な安全ピン10本と、メタギャラのロゴ入り限定養生テープを取り出した。そして大河内さんに叫んだ。「大河内さん、動かないでください!今、最高の『補修』を施します!」
俺は膝をつき、プロの手つきで破れた生地を内側に折り込み、安全ピンで固定。さらに、裏から黒の養生テープで美しく補強した。その間わずか30秒。ただの破れ目が、まるでそういうデザインのロックなダメージジーンズのように生まれ変わったのだ。
「……ほう、悪くないな」
大河内さんがニヤリと笑った。彼はそのままマイクを握り、会場の中央へ歩み出た。「皆様、お騒がせしております!これは我が社の新作、体験型アートとパンクロックの融合演出です!」
大河内さんのまさかの乗っかりに、会場からは「おおっ!」と歓声が上がった。さらに彼は俺の作った痛バとタペストリーを指差し、「この若きクリエイターの情熱に拍手を!」と煽る始末。セレブたちがノリノリでメタギャラの曲に合わせて手拍子を始め、会場は謎の一体感と爆笑に包まれた。
結果としてパーティーは大成功。コート代どころかズボンの弁償も免除になり、それどころか大河内さんから「君の現場対応力と手先の器用さに感服した。次のイベントのディレクションも頼む」と、まさかの臨時ボーナスまで貰ってしまった。
弁償の恐怖から始まった俺の災難は、こうして爆笑と謎の評価を得て幕を閉じた。もらったボーナスで、俺は即座にメタギャラの追加公演チケットと新しい痛バ用の缶バッジを買い走ったのだった。推し活最高!

※この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。

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