【悲報】限界痛バ男、倍率100倍の神席で涙腺が崩壊した結果
聞いてくれ。先日、俺の人生のすべてを賭けている架空の2.5次元オルタナバンド「ディザスター・ナイト」(通称ディザナ)の奇跡の一夜限りの復活ライブがあったんだ。
チケット倍率は驚異の100倍超え。徳を積みまくった結果、なんとアリーナ最前ブロックという神席が当選。俺は気合を入れすぎて、推しの缶バッジ80個を敷き詰めた総重量5キロの「痛バッグ」を肩にかけ、自作のLED内蔵「光る参戦服(マント付き)」を羽織って完全武装で会場に向かった。
会場に到着して絶望した。周りは若いキラキラした女子やお洒落なサブカル男子ばかり。30代半ばの喪男が痛バと光るマントを引きずっている姿は、完全に「不審なモンスター」だった。周囲の視線が痛い。完全に浮いている。席に着くと、隣はこれまたお洒落なキレイめのお姉さんではなく、俺と同じように緊張で震えているスーツ姿のサラリーマン風の男だった。お互い「あっ、同類(オタク)だ」と察しつつも、気まずくて無言で正面を見つめる。
だが、暗転してオープニングの爆音が響いた瞬間、すべての雑念が吹き飛んだ。
ステージに推しが現れ、イントロが流れた瞬間、俺の目からは大雨のような涙が溢れ出ていた。痛バの重さも、周りの冷ややかな視線も、自分がオッサンだという事実も、全部どうでもよくなった。ただただ、目の前の音楽と、推しが放つ眩しすぎる光だけがすべてだった。
「生きててよかった……!」
喉がちぎれるほど声を限界まで張り上げ、ペンライトを全力で振り回した。気がつくと、隣のスーツ男もネクタイを頭に巻き、狂ったように拳を突き上げて絶叫していた。サビに入る瞬間、俺と隣の男の視線が交差した。言葉はいらなかった。お互いに涙と汗でベショベショになりながら、力強くサムズアップを交わした。その瞬間、俺たちは宇宙で一番熱いソウルメイトだった。
終演後。規制退場で現実に引き戻される。隣の男とは「……最高でしたね」「ああ、最高でした」とだけ言葉を交わし、連絡先を聞くこともなく、それぞれの帰路についた。名前すら知らない。
でも、駅に向かう夜風の中で、不思議と心が信じられないくらい軽くなっていることに気づいた。他人の目ばっかり気にして、オタクである自分をどこか恥じていたちっぽけな俺は、あの爆音の中で完全に消え去っていた。何かを全力で愛せる自分って、めちゃくちゃカッコいいじゃん。明日からのクソみたいな仕事も、この熱量があれば余裕で乗り越えられる。そう確信できるほど、俺は一回り大きな男に成長していた。やっぱりライブって、最高だわ。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。