【全5話・完結】推しと繋がるより大切な奇跡の夜
レンのスマホ画面に映し出されていたのは、ルナ・シーカーズの公式アカウントの裏管理画面と、未発表の新曲デモファイルだった。
「私、実は……ボーカルのハルキの妹なの。裏方で広報の手伝いもしてて」
……はい? エッ、ちょっと待って? 脳の処理が追いつかない。推しの妹? 痛バを組んで、物販列に何時間も並んでたあの古参ファンが!?
「兄の七光りだと思われるのが嫌で、ずっと隠してファンの振りをしてた。でも、タカさんみたいに純粋にバンドを愛してくれる人と出会えて……本当の自分で、友達としてライブを楽しみたいって思っちゃったの」
レンは震える声でそう言った。あのペンダントは、兄から「いつも応援してくれてありがとう」と贈られた関係者限定の試作グッズだったらしい。泣いていたのは、正体を明かしたら俺に「裏切り者」だと嫌われるのが怖かったからだそうだ。
俺は深呼吸をして、レンの頭をぽんぽんと叩いた。
「バカだなあ、レンちゃん。妹だろうが何だろうが、俺と一緒に最前列で首振ってきた時間は本物だろ? 嫌いになるわけないじゃん!」
俺が笑うと、レンの瞳からボロボロと涙がこぼれ落ちた。でも今度は、安堵の笑顔だった。
数ヶ月後。ルナ・シーカーズのアリーナツアー最終日。
会場の外で、俺とレンはいつものように痛バを肩にかけ、新作の缶バッジを交換していた。
「タカさん、今日のセトリ、ヤバいから覚悟してね!」
「おいこら妹権限のネタバレは不可避だぞ!」
顔を見合わせて大爆笑する。隣を見れば、同じ熱量で推しを語れる最高のパートナーがいる。心臓がトクンと跳ねたのは、推しの登場を待つ高揚感のせいだけじゃない……気がする。
照明が落ち、爆音が響く。俺とレンは顔を見合わせ、同時に拳を突き上げた。推し活がつないだこの奇跡に、最高の歓声を届けるために!
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。