【全5話・第1話】推しの限定缶バッジと全財産を賭けた戦い

【全5話・第1話】推しの限定缶バッジと全財産を賭けた戦い の挿絵

人生で一番気合いを入れた日の朝に、人は信じられないバカなミスのスイッチを押してしまうらしい。
俺、通称「ポテチ」。最推しのロックバンド「アルティメット・パンプキン(通称アルパン)」のツアーファイナル当日の朝、俺は満員電車の中で冷や汗を流していた。

今日の目当ては、会場限定100個の「激レアホログラム缶バッジ」。これを入手するために、俺は半年かけて痛バッグ(通称痛バ)を制作し、推しカラーのオレンジ一色で身を包んだ「勝負参戦服」で身を固めてきた。胸元には自作のラミネートカード、カバンからは溢れんばかりのラバーストラップ。完璧だ。完璧すぎる姿で俺は決戦の地、東京ガーデンシアターへと向かっていた。

「ふっ、今日の俺は一味違うぜ……」
混雑する車内で、俺は痛バのファスナーを確かめ、ポケットの中の財布に手を伸ばした。
……ん?
財布がない。
いやいや、嘘だろ。デカい痛バの底か? 必死で探るが、手に触れるのはギッシリ詰まった缶バッジの裏側の感触だけ。冷や汗がドバッと吹き出た。
今日のために下ろした全財産5万円と、公演チケットが入った財布を、俺は自宅の玄関に忘れてきたのだ。

手元にあるのは、ICカードにチャージされた残高840円と、スマホだけ。
現地までの電車代でほぼ全滅する。物販どころか、電子チケットの発行は……あ、待て。アプリのログイン情報、財布の中のカードキーにメモしてあったやつじゃん!!
物販も買えない、チケットも提示できない。推しに捧げるはずだった俺の完璧な1日は、開始数分で完全に詰んだ。
呆然としながら駅のホームに降り立った俺の耳に、聞き覚えのある「痛バのシャラシャラ音」が聞こえてきた――。

※この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。

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