【全5話・第2話】残金840円で奇跡の遭遇とまさかの展開
ホームのベンチで頭を抱えていた俺の視界に、目にも鮮やかなオレンジと紫のグラデーションが飛び込んできた。
間違いねぇ、あれは『アルティメット・パンプキン』の昨年のツアー限定公式パーカー!しかも痛バの組み方が玄人すぎる……!
自暴自棄になっていた俺は、藁にもすがる思いでその人物——全身アルパン装備の背の高いお兄さんに声をかけた。「あの……すみません、アルパンのファンの方ですよね!?」
お兄さんは驚いた顔で振り返った。「えっ、あ、はい!うわ、君の痛バすごっ!缶バッジの配置完璧だね!」
オタク特有の早口でお互いの参戦歴を語り合い、一瞬で意気投合。お兄さんは「サトシ」と名乗った。しかし、俺が財布を忘れて残金840円、電子チケットの画面もアプリの仕様で開けない(クレカ決済画面の承認が必要だったのだ……絶望)という地獄の状況を打ち明けると、サトシさんの顔色がガラリと変わった。
「えっ……じゃあポテチ君、チケット発券できてないの!?今日のたまアリ公演、本人確認めちゃくちゃ厳しいって噂だよ!?」
「ええええ!?マジですか!?」
「待って、俺の友達が一人急用で来られなくなって、紙チケットが一枚余ってるんだ!定価で譲れるよ!」
神降臨!!天は俺を見捨てていなかった!「サトシさん!一生ついていきます!……あ、でも俺、いま840円しか持ってなくて……終演後に家族にPayPayで送金してもらうのでもいいですか!?」
俺が必死に頭を下げると、サトシさんは親切にも「いいよいいよ、ライブ楽しむのが最優先だしね!」と快諾してくれた。奇跡って本当にあるんだ。俺たちは肩を並べて会場最寄りのさいたま新都心駅へと向かった。
だが、物販エリアに到着し、サトシさんが「じゃあチケット渡すね」とリュックのポケットをゴサゴサと探り始めた時、事態は思わぬ方向へ急転直下する。
サトシさんの顔から急速に血の気が引いていった。「……嘘だろ……?」
「サトシさん……?どうしました……?」
彼が震える手で取り出したのは、クリアファイルに挟まれた『まったく別のアイドルグループのチケット』だった——。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。