【全5話・第2話】鬼頭部長のデスクに隠された秘密の参戦服
「……おいポチ、ドアを閉めろ」。鬼頭部長の低音ボイスが会議室に響き、俺の心臓は跳ね上がった。
出されたのは、ブラクロのインディーズ時代……結成わずか3ヶ月で限定50個しか作られなかった幻の「血塗られた漆黒の缶バッジ」だった。ヤバい。本物だ。プレミア価格で10万はくだらない代物が、今、目の前の会議室の机にぽつんと置かれている。
「ぶ、部長……これ、どこで……?」「……フン、どこでもいいだろ。それよりポチ、お前、今度のツアーファイナルのチケット、何枚持っている?」
鬼頭部長の眼光が怪しく光る。「えっと、俺は自力で1枚……」「そうか。俺は……家族分の連番で取れていたんだが、急に行けなくなった奴がいてな。席を余らせるのはブラクロへの冒涜だ」
え、ちょっと待って?家族分……!?
あの「歩くシベリア寒気団」と呼ばれ、部下を詰めることしか能がないと思われていた鬼頭部長が、家族でブラクロのライブに……!?
俺が混乱していると、部長は引き出しからさらに信じられないものを取り出した。それは、丁寧に畳まれた、ブラクロ初期の激レア参戦Tシャツと、手作りの痛バッグだった。
「いいかポチ。これは業務命令だ。今週末のライブ、俺と一緒に参戦しろ」「えええええっ!?」
パニックになる俺をよそに、部長は静かに、しかしどこか寂しげな目をして呟いた。「……実はな、俺の娘が……」
部長の口から語られ始めたのは、厳格すぎる父親が抱える、あまりにも切ない家庭の事情だった――。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。