【全5話・第3話】部長の痛バに隠された、涙の親子事情
ライブ当日、会場前で待っていた鬼頭部長の姿を見て俺は目を疑った。
普段のピシッとしたスーツ姿はどこへやら、身にまとっているのは超初期のツアーTシャツと黒のダメージジーンズ。そして肩からは、例の重厚な手作り痛バッグが神々しく鎮座していた。「おう、ポチ。遅いぞ」……いや部長、気合入りすぎでしょ。周囲の若者バンギャたちからも「あのオジサンすご…」とヒソヒソ声が漏れている。
「あの、部長。娘さんは結局どうされたんですか?」
開演前の物販列に並びながら、俺は意を決してずっと気になっていた疑問をぶつけてみた。
部長は少し切ない顔をして、持参した缶バッジを愛おしそうに撫でた。「……実はな、娘の反抗期が酷くてな。高校に入ってから口もきいてくれなくなったんだ。でも半年前、娘の部屋から『ブラクロ』の曲が聞こえてきてさ。俺が昔から大好きなバンドだったから、嬉しくて話しかけたんだよ」
そこから部長は、娘との会話のきっかけを作りたくて必死に最新グッズを集め、痛バの作り方をネットで調べ、血の滲むような努力でファンクラブ最速先行の連番チケットを当てたらしい。
「なのに直前になって『パパとライブ行くなんて絶対ムリ、友達と行くからチケットちょうだい』って言われてさ……。流石にチケットだけ渡すのは危ないから断ったら、大喧嘩になって家を飛び出しちまったんだ」
うわあああ、切ねえ! 部長の痛バ、娘愛の結晶だったのかよ! 涙でブラクロのロゴが滲んで見えるぜ……。俺が「部長、今日全力で楽しみましょう!」と肩を叩いたその時だった。
会場の大型モニター付近で、若い女の子が男数人に囲まれて揉めているのが目に入った。
「ねえ君、チケット余ってたりしない? 一緒に入ろうよ〜」
「やめてください! 友達待ってるんで!」
……待て、あの女の子が抱えているバッグ、部長のと色違いのブラクロ痛バじゃないか!?
「おいポチ、あれ……うちの娘だ!!」
部長が凄まじい顔で走り出した! 一体どうなっちゃうのー!?
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。