【全5話・第4話】会場前の大泥棒と、不器用すぎる父親の叫び
「待てやコラァァァ!!」
普段の会社じゃ絶対に聞けない、鬼頭部長の地裂けるような大声が会場前に響き渡った。あの仏の鬼頭が、全身スタッズのライダースをなびかせて猛ダッシュしている。俺も痛バをガシャガシャ言わせながら、必死でその後に続いた。
「なんだお前!?」ナンパ男が怯んだ隙に、部長は娘さんの前に立ちはだかった。汗だくで、ゼーゼー息を吐きながら。「お前、アスカ……!」「な、なんでお父さんがここに……てか、その格好何!?」娘のアスカちゃんは目を見開いている。まあ無理もない、厳格な父親が全身V系フル装備で現れたんだから。
ナンパ男がチッと言って去っていくのを確認し、部長は肩で息をしながらアスカちゃんに向き合った。「お前、家出なんかして……母さんが心配してるぞ」「うるさいな! お父さんに関係ないでしょ! ブラクロのチケットだって自分で当てたんだから!」
アスカちゃんが背を向けようとしたその時、彼女のバッグから『ポロッ』と音がして、限定の激レア缶バッジが落ちた。それを見た部長が、急にポケットをゴソゴソ探り始めた。「あ、あのさ……アスカ。これ、やる」部長が差し出したのは、始発で並んでゲットした、例の限定ラミネートカードと超レア缶バッジだった。
「お前が欲しがってたやつだ。……俺、お前と話したくて。ブラクロのこと、勉強したんだ。この服も、お前と一緒にライブ見たくて……」不器用すぎる部長の言葉に、アスカちゃんの瞳が揺れた。まさか親父が自分のためにここまで痛い格好をして、物販に並んでいたなんて思いもしなかっただろう。
「お父さん……本当にブラクロ好きなの?」「おう! ヴォーカルのカイのシャウト、最高じゃないか!」……えっ、部長、いつの間にそこまで詳しくなったの!? 奇跡的な和解の空気が漂い、俺も物陰で「よかったぁぁ」と泣きそうになっていた。
その時だ。
「開場時間になりまーす! チケットをお手元にご準備ください!」スタッフのアナウンスが響く。
「よっしゃ、一緒には入ろう!」部長が嬉しそうにチケットを出した。アスカちゃんもスマホの電子チケット画面を開く。……が、アスカちゃんの顔色が急転直下、蒼白になった。
「……嘘でしょ? スマホのバッテリーが切れて……画面がつかない……」
開場ゲートの列が動き出す。電子チケットが表示できなければ、入場は絶対不可能。開演まであと15分。充電器を持っている奴はここにいない。絶体絶命のピンチが、最後の最後で押し寄せてきた!!
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。