【全5話・第1話】推しの限定缶バッジが爆死した話

【全5話・第1話】推しの限定缶バッジが爆死した話 の挿絵

人生、賭けに出なきゃいけない瞬間ってのがある。俺にとってそれは今日の物販だった。
俺の名は「タカ」。しがない20代サラリーマンだが、裏の顔は4人組ロックバンド『ステラ・ノイズ』の重度オタクだ。今日は待ちに待った全国ツアー初日。朝5時から物販列に並び、狙うはランダム全20種の限定缶バッジ!推しのベース担当・シオン様のホログラムレアを絶対に引く。それだけが生きがいだった。
痛バッグを肩にかけ、ラバーストラップをジャラジャラ言わせながら待つこと4時間。ついに俺の順番が来た。限界まで引いた10個の缶バッジ。震える手で開封していく。ノーマル、ノーマル、ボーカル、ドラム……そして最後の一個。チラッと見えた紫の髪。キタァァァ!シオン様のレアだ!と思った瞬間、強風が吹いた。
「あ」
手からすり抜けた缶バッジは、綺麗に放物線を描いて、物販エリアの横にある「立ち入り禁止の側溝のスキマ」へ吸い込まれていった。嘘だろおい。泥と暗闇の彼方へ消えた推し。呆然と立ち尽くす俺。スタッフに泣きついたが「終演後まで拾えません」と撃沈。
絶望のままライブを終え、終演後にダメ元で現場に戻ると、そこにはライトを照らしながら側溝を覗き込む一人の作業服の人物がいた。「あの……」と声をかけると、その人物が振り返ったのだが……俺は思わず二度見した。

※この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。

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