【全5話・第3話】作業服の正体はまさかのあの人

【全5話・第3話】作業服の正体はまさかのあの人 の挿絵

待て待て待て、脳の処理が完全に追いつかん。
俺の目の前で、限定レア缶バッジを指でつまんで立っている作業服の人物。ヘルメットを脱いだその顔を見て、俺は完全にフリーズした。
「……え? 山口さん……!?」
そう、そこにいたのは、俺が勤める会社の総務部でいつも死ぬほど厳格な「山口部長」その人だったのだ。
普段は「タカ君、経費の申請書類、また印影がズレているよ」とか冷酷な声で詰めてくる、あの鬼部長。御年50歳オーバー。いつもピシッとしたスーツ姿の人が、なぜかライブ会場の搬入口でダボッとした作業服を着て汗をぬぐっている。
「な、なんで山口部長がここに!? しかもその格好……!?」
俺がパニックを起こして吃っていると、山口部長は一瞬だけ気まずそうに目を泳がせた後、フッと小さく溜息をついた。
「……声が大きいよ、タカ君。ここではその名前で呼ばないでくれ」
「へ?」
部長は周囲を警戒するように見回すと、俺の手を引いて少し離れた機材搬入用の物陰へと連れて行った。
「私は今日、音響機材の搬入スタッフのボランティアとして参加しているんだ。……実は、ステラ・ノイズのインディーズ時代からの古参ファンでね」
「マジですかーーーーッ!?」
思わず大声を出しそうになり、慌てて口を押さえた。あの厳格な山口部長が、まさかのステノイ古参推し!? 会社じゃクラシックしか聴かないみたいな顔してるのに!?
「驚くのも無理はない。会社では絶対に秘密にしているからね。……ところでタカ君、君のそのバッグ、なかなか気合が入っているじゃないか」
部長の視線が、俺の愛着と血と sweat(汗)の結晶である痛バッグに向けられた。そこにはズラリと並ぶステノイのラバーストラップやラミネートカード。そして、今受け取ったばかりの限定缶バッジ。
「あ、はい……俺、ステノイ命なんで……」
照れ隠しに痛バを抱え直すと、山口部長の目が怪しく光った。
「ほう……なら、君に一つ言わなければならないことがある」
部長は胸のポケットから、何かを取り出した。
「実はね、今日のシークレットゲストの情報を……」
え? 部長、今なんて言いました??

※この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。

← 記事一覧にもどる