【全5話・第2話】ドアの向こうの秘密と予想外のオタク語彙

【全5話・第2話】ドアの向こうの秘密と予想外のオタク語彙 の挿絵

「おい嘘だろ、その手にあるのって、去年の冬ツアーで限定30個しか流通しなかった『アビト・幻のラバーロゴチャーム』じゃねえか……!?」

深夜のアパートの廊下、お互いフリーズすること約10秒。俺の視線は、コワモテお兄さんのゴツい右手に握られた青く光る物体に釘付けだった。それは我が最推しバンド『アルカディア・ビート』の超激レアグッズ。そして俺の肩には、自作の缶バッジを50個以上敷き詰めた戦闘力53万級の「痛バッグ」が鎮座している。

「あ……」
先に口を開いたのは、あの無口でヤクザ顔負けのコワモテさんだった。いつもはドスの利いた声なのに、今は気の抜けたソーダみたいな声が出ている。
「お前……それ、ボーカル・ハルト推しの痛バ……?」
「え、あ、はい。というか、あなたこそ……それキーボード・シオンの限定チャームですよね!?」

そこからは早かった。深夜の廊下という最悪のシチュエーションにもかかわらず、俺たちのオタクトークは一瞬で限界突破した。なんと、コワモテお兄さん(本名:黒崎さん)は、アルカディア・ビートのキーボード担当・シオンを神と崇めるガチの同胞だったのだ。普段のあの威圧感はどこへやら、シオンの魅力を語る黒崎さんの目は、キラキラ輝く純真な少年のようだった。

「いつも隣から重低音が響いていて、すまなかった。防音ヘッドホンが壊れていて……」
「いえ、あの怪しい青い光はライブ映像だったんですね。てっきり怪しい宗教の儀式かと……」
長年の誤解が秒で解けて、お互いヘラヘラと笑い合う。隣にまさかの同胞が住んでいたなんて、神様仏様アルカディア様、大感謝である。

しかし、黒崎さんは急に真剣な、それこそ裏社会の取引でも始めるかのような厳しい表情に戻り、俺の痛バッグをじっと見つめた。
「……缶バッジ職人さん。実は、あなたにどうしても頼みたい、命がけの依頼があるんです」
えっ、命がけ!? 黒崎さんの真剣すぎる眼差しに、俺の背筋に冷たいものが走った――。

※この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。

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